血液・腫瘍内科
当科の前身である昭和病院血液内科の設立は昭和40年代になされ、東海地方において屈指の伝統を有しています。創生期より尾張北地区はもとより岐阜県南部を含む尾張・美濃地方の血液病センターとしての役割を果たし続けています。特に造血幹細胞移植については1990年6月に第一例の同種骨髄移植を実施し、尾張地区唯一の日本骨髄バンク・さい帯血バンクの認定施設として数多くの造血幹細胞移植を行ってきております。
また、当院は日本血液学会研修施設として血液内科の専門研修を行っています。当院は歴史的に数多くの血液化学療法および造血幹細胞移植の専門医を輩出しており、その多くは名古屋大学を中心とした教育研究機関や臨床の第一線でこの分野をリードしています。
2008年5月江南厚生病院開院とともにオープンした血液細胞療法センター(血液・腫瘍内科病棟)は最上階8階東側に位置し、独立した空調をもつ空間に全46床、無菌室17床を含む個室30床をもち、血液悪性腫瘍に対する強力な化学療法や造血幹細胞移植を施行するための最適な環境を提供しています。また、造血細胞移植コーディネーター(HCTC)が在職しており、移植医療が円滑に行われるように病院内外での調整を行うと同時に、患者さんや家族の支援を行っています。
専門分野
良性・悪性を問わず、あらゆる血液疾患を対象として診断・治療を行っていますが、特に血液悪性腫瘍に対する化学療法・分子標的療法、難治性血液疾患に対する造血幹細胞移植に力を入れています。
治療方針
基本的には日本血液学会「造血器腫瘍診療ガイドライン」や日本造血細胞移植学会「造血細胞移植ガイドライン」に従い、血液・腫瘍内科カンファレンスでも十分に検討の上、エビデンスに基づいた質の高い医療の提供に努めています。どんな場合も病状と治療法に関して詳しい説明を行い、患者さんの目指すゴールをともに見据え、それぞれの患者さんにとっての最善を考えて治療方針を決定するように努めています。 血液内科領域における代表的な疾患に対する当科の治療方針の概要を以下に記載します。
<急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病>
骨髄穿刺を行って、鏡顕以外に細胞表面抗原や染色体・遺伝子異常の解析を行い、正確な診断を行うことによって治療方針を決定します。1987年に設立されたJALSG(Japan Adult Leukemia Study Group:日本成人白血病治療共同研究グループ)の初期の頃からの参加施設であり、我が国における標準治療の確立やよりよい診断・治療の開発を目的とする臨床研究に積極的に参加しています。基本的には初回治療(寛解導入療法~地固め療法)として国内外のエビデンスに基づく標準療法を行いますが、診断時の予後予測や治療経過によって同種造血幹細胞移植の適応を検討し、必要と判断されれば積極的に同種移植を行います。<慢性骨髄性白血病>
チロシンキナーゼ阻害薬の特性と患者さんの背景因子を考慮して治療薬の選択を行います。治療経過中にELN (European LeukemiaNet) の提唱に基づいた細胞遺伝学的効果・分子遺伝学的効果の判定を行い、治療薬による有害事象も考慮して、薬剤選択の妥当性を随時評価しながら治療を行います。<骨髄異形成症候群>
骨髄穿刺によって診断と病型分類を行い、血液減少の状態や染色体検査などのデータも併せて、国際予後予測スコアリングシステムに従ってリスク分類を行い、治療方針を決定します。5q-症候群にはレナリドミド、それ以外の低リスク群ではサイトカイン療法・免疫抑制療法・アザシチジンなどが治療法の選択肢となりますが、病状によっては経過観察も選択肢となります。高リスク群にはアザシチジンを積極的に導入しますが、芽球が多い場合には抗がん剤を用いた化学療法も選択肢となる場合があります。高リスク群では、年齢(上限年齢は65~70歳程度)や臓器機能を考慮して、可能であれば積極的に同種造血幹細胞移植を行います。長期にわたって輸血が必要な患者さんでは鉄過剰症が問題となるので、鉄キレート剤の投与を行うこともあります。<悪性リンパ腫>
正確かつ迅速な病理診断と病期診断のために、病理診断部をはじめ、放射線科・消化器内科・呼吸器内科・外科・耳鼻咽喉科・脳神経外科・整形外科など、様々な診療科と連携をとっています。ホジキンリンパ腫・B細胞性リンパ腫・T細胞性リンパ腫などと大別される悪性リンパ腫は、WHO分類によってさらに細かく分類されますが、この病理分類と、病気の広がりを示す病期分類に応じて、国内外のエビデンスに基づいて治療方針を決定します。可能な限り、外来化学療法センターを利用した通院治療を行います。寛解導入不応または再発の患者さんには救援療法を行い、その効果によって積極的に自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法を行っています(上限年齢は65~70歳程度)。<多発性骨髄腫>
年齢(上限年齢は65~70歳程度)や臓器機能によって自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法の適応を検討します。自家末梢血幹細胞移植を目指す患者さんにおいては、できるだけ早期に深い寛解を得ることを目標に、プロテアソーム阻害薬や免疫調節薬とデキサメタゾン(ステロイド)の併用療法を導入療法として行い、一連の治療として自家末梢血幹細胞移植併用でのメルファラン大量療法を行い、必要性を検討のうえで維持療法を行います。自家移植を選択しない場合には、プロテアソーム阻害薬や免疫調節薬とステロイドの併用療法を中心に、病気や治療が生活に及ぼす影響ができるだけ小さくなるように、年齢や臓器機能に応じた工夫を加えながら治療を行います。<慢性リンパ性白血病、小リンパ球性リンパ腫>
我が国においては比較的希少な疾患です。慢性リンパ性白血病と悪性リンパ腫に分類される小リンパ球性リンパ腫は本質的には同一疾患とみなされるので、治療選択も基本的に共通の方針となります。慢性リンパ性白血病ではRai分類やBinet分類などの病期分類を参考にして、一定以上の病気の進行が見られず、全身症状も認めない場合には経過観察を行います。病気の進行が速い場合や、発熱・寝汗・体重減少などの全身症状を伴う場合、一定以上のリンパ節腫大や肝脾腫、血球減少を認める場合には治療開始を検討します。フルダラビン・シクロホスファミドなどの抗がん剤、イブルチニブなどの分子標的療法薬、モノクローナル抗体薬であるリツキシマブ・アレムツズマブを、病型・病期・年齢・臓器機能などに応じて、単独または併用で用いて治療を行います。<再生不良性貧血>
厚生労働省調査研究班の重症度分類に基づいて重症度(軽症~最重症の5段階)を判定し、治療方針を検討します。軽症・中等症では経過観察、または血球減少の程度により免疫抑制療法、トロンボポエチン受容体作動薬、タンパク同化ホルモンの投与を行います。やや重症・重症・最重症では、40歳未満の若年患者さんでHLA適合同胞ドナーが得られる場合には積極的に同種造血幹細胞移植(幹細胞源としては骨髄を優先)を行い、それ以外の場合には一般的に免疫抑制療法を選択しますが、血球減少の程度・治療反応性・患者さんの年齢などを考慮して非血縁者間骨髄移植を行い、場合によっては臍帯血移植やHLA一部不適合移植も選択肢とします。<特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病>
厚生労働省調査研究班による「成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド」に基づいて治療方針を検討します。ピロリ菌陽性の場合は除菌を行います。除菌の効果を待てない場合やピロリ菌陰性または除菌無効の場合は、血小板数と出血症状によって、患者さんの年齢・合併症・活動性、妊娠の有無や希望などを考慮して治療方針を決定します。第一選択はステロイド(副腎皮質ホルモン)です。第二選択として脾臓摘出、トロンボポエチン受容体作動薬、リツキシマブの投与を検討します。<同種造血幹細胞移植>
同種造血幹細胞移植は疾患特異的な治療法ではなく、予後不良または再発・難治性の血液疾患(再生不良性貧血などの良性疾患も含む)に広く適用される治療法です。幹細胞源によって骨髄移植・末梢血幹細胞移植・臍帯血移植、ドナーによって血縁者間移植・非血縁者間移植、移植前治療(前処置)の強度によって骨髄破壊的移植・骨髄非破壊的(強度減弱)移植に分類されます。また、HLA適合移植が基本となりますが、状況によっては半合致(ハプロ)移植を含むHLA不適合移植も行います。当院における同種造血幹細胞移植は、国内外のエビデンスに基づき、日本造血細胞移植学会「造血細胞移植ガイドライン」を参考にして、血液・腫瘍内科のカンファレンスでの議論を経て適応を判断し、患者さんの意思を尊重して方針を決定します。また、多職種参加による移植カンファレンスを定期的に開催し、多方面からの意見を治療に反映させています。移植後長期フォローアップ(LTFU)外来も開設しており、移植後合併症の評価・日常生活やセルフケアの指導・予防接種やがん検診の案内・その他さまざまな相談への対応を行っています。
当院では1991年から2021年4月までに、合計563例の造血幹細胞移植を実施しています(自家造血幹細胞移植137例と 同種造血幹細胞移植426例(血縁者間移植164例(骨髄88例、末梢血76例)、非血縁者間移植262例(骨髄139例、末梢血4例、臍帯血119例))。
医師のご紹介
氏 名 | 役 職 | 免許取得 | 認定医・専門医 |
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河野 彰夫 | 病院長 | 昭和62年 | 日本造血細胞移植学会・認定医 日本臨床腫瘍学会・暫定指導医 日本血液学会・指導医 日本血液学会・専門医 日本内科学会・指導医 日本内科学会・認定医 日本がん治療認定医機構暫定指導医 プログラム責任者講習会修了 臨床研修指導医講習会修了 緩和ケア研修会修了 |
尾関 和貴 | 血液細胞療法センター長兼 外来化学療法センター長兼 血液腫瘍内科代表部長 |
平成10年 | 日本造血細胞移植学会・認定医 日本内科学会・指導医 日本血液学会・指導医 日本内科学会総合内科専門医 日本血液学会・専門医 日本臨床腫瘍学会・指導医 日本臨床腫瘍学会・専門医 日本がん治療認定医機構・ がん治療認定医 臨床研修指導医講習会修了 緩和ケア研修会修了 |
福島 庸晃 | 第一血液・腫瘍内科部長 | 平成16年 | 日本血液学会・指導医 日本血液学会・専門医 日本内科学会・認定医 日本内科学会総合内科専門医 臨床研修指導医講習会修了 緩和ケア研修会修了 |
後藤 実世 | 血液・腫瘍内科医長 | 平成25年 | 日本血液学会・専門医 日本内科学会・認定医 臨床研修指導医講習会修了 緩和ケア研修会修了 |
鵜飼 俊 | 医員 | 平成27年 | 日本内科学会・認定医 緩和ケア研修会修了 |
河村 優磨 | 医員 | 平成29年 | 緩和ケア研修会修了 |
伊藤 真 | 医員 | 平成30年 | 緩和ケア研修会修了 |
沼田 将弥 | 医員 | 平成31年 |